情報、記録、記憶、神炎、黄金、死、炎雷覇、妖魔、神凪、綾乃、厳馬、煉、宗主、重悟、宗家、分家、精霊王、八神和麻、風の聖痕。
目を覚ましたとき自分の名前すら忘れていた。あるのはただの情報の入った肉体だけだった。目を覚まして自分の記憶と情報の整理ができたとき、自分のことが惨めになり一日中泣きはらした。
僕の名前は穂村康介。神凪の分家のひとつ穂村家の次男、今年で十二歳それが僕だ。
 
風の聖痕 炎の記憶
 
交通事故だった。
逃げ出した和麻を捕まえるために町に出て交差点を曲がったところで記憶を失った。
後に聞いた話によると軽トラックとの交通事故で軽い脳震盪だけだったらしい。しかしそれでも二日間目覚めず、目を覚ました後も数日間誰の呼びかけにも反応せずにぼぉーと過ごしていた。意識が戻ったのは事故にあってから一週間後のことだった。
意識が回復して一番ショックだったことは、交通事故にあったことでも神凪の友達が誰一人として見舞いに来ていなかったことでもなかった。
僕が一番ショックだったことそれは、意識を失っているときに見た夢のことだった。それはタイトルをつけるなら「風の聖痕」。
いつもいじめている和麻が神凪を出て行き風の精霊王と契約して、契約者として日本に帰ってくる夢だった。夢の中で僕は和麻にあっさり風の鉄槌を喰らい、その時首の骨を折り全身不随になり残りの人生を過ごし半年後あっさり死んだ。和麻はいろいろな事件を解決しそれなりに幸せそうに笑いながら生きていた。
僕の中にあったのは怒りではなく、絶望だった。持って生まれた才能だけが僕の中では全てだった。炎を操る力それだけが全てだった。それだけで僕は神凪以外を見下していた、普通の人間を見下していた。
でも結局それはそれ以上の力に対して無力でしかなく、見下されるしかなかった。そしてこのままこんな考えで生きていき和麻に殺されるしかないのだろうか? そんなことしか考えられなかった。
いやそれは違うはずだ、あれは夢だった。あんなことが現実に起ころうはずがない。
でも本当に夢なのだろうか?絶対に現実は起きないことだろうか? 仮に現実に起きなかったとしても、別の脅威が立ち上がってくるのではないだろうか?
和麻が帰ってこなかったとしても、風牙の反乱が絶対におきないとはいえない。風牙の神がいるか、いないかは関係ない。すでにこの問題は和麻や風牙は関係ない。もし僕の炎が効かない存在とであったら。僕より強い存在とであったら。殺されるしかないのだろうか?
いやそれは違うはずだ。分家の結城慎治は死を目の前にして黄金の炎を出せた。ならば僕だって死ぬ気で鍛錬すれば黄金の炎を出せるはずだ、黄金の炎さえ出せるならきっと勝てるものはいない。
でも、それでも妖魔になった風巻流也には負けた。だけど炎雷覇ならやつを殺せる、あの剣を使えるならどんな存在にも勝てるはずだ。それを自分のものにすることができるなら。もしも自分のものになるなら、それならどんな存在にも勝てるようになれるだろうか。いや炎雷覇だけでは勝てない。力を使い武器を使い知恵を使う、全てのものと全ての力を使いこなせるなら炎雷覇がなくても負けないはずだ。そう自分は選ばれた一族の人間だから。
僕はそう思い込むことで自分を保った。いやこんな藁にもすがる思いで自分のプライドを保とうとしていた。なぜなら僕は、僕たち一族は選らばれた一族なのだから。
でも本当はわかっていたのだと思う。神凪の炎は選ばれたとか選ばれなかったとかではなく、鳥が飛ぶように、魚が泳ぐように、花が咲くように、神凪の一族は炎を操れるというだけなのだということを。
 
 
退院してからの僕は鍛錬の日々だった。炎術、体術、剣術、気、自分にできることは何でもした。それだけではなく頭も鍛えた。ついには神凪では教えないようなことも独自に学ぶようになった。何かしていないと不安になりとにかく自分を痛めつけるように修行した。
周りの人は最初は修行熱心と褒め、次に修行しすぎと心配し、最後には頭がおかしくなったと笑った。
結局僕は孤立した、僕のことをわかってくれるのは大神のおじさんだけになった。
そしてその次の年、僕が13歳になったとき炎雷覇の継承の儀が行われる問いう告知が出た。
僕の夢とは違うところ、それは大神のおじさんの推薦で僕も継承の儀に出るようになることだった。
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