「綾乃さん、綾乃さん京都つきましたよ。起きてください綾乃さん。」
 京都について綾乃さんを起こそうと声をかけるがなかなか起きない。仕方ないので体をゆすって起こそうとする。
「綾乃さん、起きてください。」
 和麻は既に新幹線を降りようとしている。
 強めに揺らすと綾乃さんのパンチが飛んできた。さすがに何度も起こしているのでそれは予測済みだ。体を少しずらして回避する。
 もう一度体をゆするとやっとおきた。
「おはよう康介、もうついたの?」
 はい、あなたが寝ている間につきました。もちろんそんなこと言う分けないが僕は愛想良く笑って「早く降りましょう」といった。
 
 風の聖痕 炎の記憶
 
用意されていた四駆に乗り込んで目的地の聖地に向かう、和麻のアドバイスどうりにみんなシートベルトを締めてない、もっとも僕は後部座席のときはいつもつけないけど。
前の座席では相変わらず和麻と綾乃さんが口論をしていた。といっても相変わらず綾乃さんが突っかかり和麻が受け流すというものだったが。
「出ろ!」
 和麻の突然の忠告に従い車内から飛び出す。綾乃さんが何か言っていたがそんなものを聞いていたらこっちの命がなくなってしまう。
 僕は車内から飛び出すと同時にそのまま山に向かって走り出す。正直ここにいても邪魔になるのはわかりきっている。ちらりと攻撃が来た方向を見ると写真で見た男性が宙に浮いていた。
 正直に言うとかなり恐ろしかった。圧倒的な実力差に恐怖感を覚えた。僕は二人を信じて三昧真火の気配のする方向に走っていく。
数分走ったところには何故か和麻と頬を引っ張られた煉くんそして兵衛と風牙の人たちがいた。
 
「和麻さん……なん、で……こんな、ところに……いる、んですか。」
 和麻は余裕そうにこちらを見たあとに改めて兵衛のほうを見る。
「なに、囚われのお姫様をやっていた我が弟を迎えにな。」
煉君は恥ずかしそうに顔を伏せる。僕のほうもだいぶ息が整ってきた。
「おのれ和麻、所詮貴様も神凪のものということか。」
 一体何があったかよくわからないが兵衛がかなり怒っている。
「お前たちやってしまえ。」
 兵衛はそういって後ろにいた風牙の人間に命令する。半数以上は明らかに操られている目をしている。
「操られていますね。」
 僕の言葉に和麻は平然と、煉くんは驚きの表情で答える。
「かっかっかっ、こやつらは風牙の誇りを忘れて、身も心も神凪の犬に成り下がったものたちよ、愚かにもワシを諫めようとしたのでな自我を奪い操り人形にしてやったのよ。どうする貴様ら、まさかこやつらを殺すわけにも行かぬだろ。ひょひょひょ……」
 妖怪ぬらりひょんの様な笑い方をする。見たことないけど。
 和麻は右手に風の精霊を集めようとするのを僕はそれを手で制した。
「殺さないでってさっき言いましたよね。僕が相手します。」
 僕は前に出て両手に浄炎を灯し疾走する。
 正面の人を焼く、両側から来る鈍器などの攻撃をバックステップでかわし二人まとめて焼く。こちらに追い討ちをかけてくる三人を右側から左にそのまままとめて蹴りで吹き飛ばす、その後にいる四人をまとめて焼く。そしてまだ倒れたままの三人のところに走りその三人もまとめて焼く。最後に周りに集まってきた操られた人間を一気に焼く。それはほんの十数秒の出来事だった
「な、何じゃと十四人いた人間を一瞬にして倒してしまうとは。」
 兵衛が呟く。
「これが『浄炎』の穂村康介。すごい……」
 どうやら煉くんも感心しているようだ、少し威張りたくなる。和麻はつまらなそうな顔をしていたもっとも、和麻だったらそれこそ本当に一瞬で皆殺しにできるだろうが、正直そんなことされたら困る。僕の任務は風牙の人たちを神凪に連れて変えるだから。
兵衛の後ろにいた人たちも驚いている表情をしている。
まあそれもそうだろう今現在、神凪の人間で浄化の炎『だけ』を使えるのは神炎使いの重悟様と厳馬様だけだからだ。それを不完全とはいえ分家の人間が使っているのだから驚いても仕方ない。倒れている人間はいずれも軽いやけどを負ったがこのまま洗脳され続けるよりましだろう。神凪の炎は浄化の炎からだの中で不自然なところや不浄なところがあればそこを焼き尽くす。それでも脳の一部を多少焼くことになるが何とかなるだろう。
「風牙の人たちに警告します。宗主はまだあなたたちを迎え入れるつもりです。首謀者以外は脅されているとの判断です。脅されている人たちは今すぐ倒れている人たちを抱えて神凪の屋敷に帰りなさい。」
 そういうと兵衛の後ろにいた人たちはこぞって倒れている人たちを抱えて下山を始めた。
「お、お主たち風牙の誇りはどこへいったのじゃ。戻ってこんか」
 兵衛が叫ぶが誰も彼の言葉に反応せずにいる。
「あ〜あ、誰もいなくなっちまったな。お前人望ないんじゃないか。」
 兵衛は和麻の言葉に顔を真っ赤にする。
「お、おのれ貴様ら、しかしまだ、まだ終わらんぞ。妖魔と契約して力を手に入れたのは何も流也だけではない。」
 しかし和麻は兵衛を見下し言った。
「流也は何も手に入れていない。ただ失っただけだ。」
 和麻ははき捨てるように言う。
「行くぞ貴様ら、これがわしの手に入れて力じゃ。」
 声と同時に空間が裂けた。そこから湧き出してくる妖気に寒気がする。そしてその妖気の元は百を越す妖魔たちの群れだった。
「あ……」
 煉くんは絶句している。まあ仕方ないと思う。流也に憑依している妖魔に比べると明らかに雑魚だが、それでもこの一匹一匹はどれも相打ち覚悟で挑まないと勝てないような妖魔ばかりだからだ。少なくとも、僕や煉くんでは。
「どうじゃ、恐れ入ったか。これがわしの力じゃ。」
「どこがお前の力なんだよ。」
 和麻はそういうがこれだけの妖魔を従えた流也に憑依した妖魔と契約する才能は結構な実力だと思う。風術師としてより妖魔使いとなって神凪を出たほうが儲かるようなきがするのは僕だけか?
「些細な問題よ。わしが流也と合流するまでこやつらと遊んで折るがいい。」
 そういって兵衛は消えた。そこに残されたのは三人だけだった。風牙の人たち無事に下山できればいいが。
「に、兄様……後ろは僕が。」
 何気に煉くんはやる気だ。もっとも足ががくがく震えているが。
 しかし僕の一言に彼は激怒した。
「先生、この不届きものどもよろしくお願いします。」
 ちょっと時代劇風に言ってみる。
「なに言ってるんですか、康介さん。いくら兄様でも一人でできるわけないじゃないですか。」
 なあ、煉くんもっとあなたの兄貴を信じなよ。
「しかたねぇな。代金一億円分くらい働くか」
 和麻の言葉に隣で煉くんがぽかんとした表情をしていた。
「煉、動くなよ。一気に片付けるからな。」
 そういうと和麻はあっさり風の精霊を集めて妖魔たちを押しつぶした。
「さすがですね、和麻さん。」
 周りの妖魔に生きているものはいない。
「僕は兵衛を追います。二人は綾乃さんをよろしきお願いします。」
 和麻は少し考え込んだあと。
「まあそれが妥当だろうな。行くぞ煉、つかまれ。」
そういって和麻は煉くんをつかんで一緒に綾乃さんのほうへと飛んでいった。
「さて僕も準備しよう。」
 僕はそう独り言を呟いた。
 僕は兵衛を追うといったが本気で隠れた風術師を炎術師が見つけられる可能性は低い。
 それならこっちは罠を張ればいいのだ。兵衛の最終目標は風牙の邪神を復活させること。そのために煉くんか綾乃さんが必要になることはわかりきっている。そして兵衛の実力的に狙うのは煉くんしかありえない。それなら煉くんの周りにいれば必然的に兵衛と接触できるのはず。
 僕はそう考え和麻たちが飛んでいったほうへと歩いていく。兵衛をしとめる準備をしながら。
 
 あれ?なんか今日の僕少し黒くないか?
inserted by FC2 system