結界の準備を終えて皆を遠くから隠れてみることにした。
 炎の精霊がものすごい反応を起こしたので急いでそちらに向かった。
 煉くんの周りにものすごい量の炎の精霊が集まっていた。
 そこでなぜか和麻と綾乃さんがキスをしていた。
 
 風の聖痕 炎の記憶
 
 和麻と綾乃さんの口論の途中に流也が来たらしく二人は煉くんをおいて遠くへといった。
 気配を隠して煉くんを見るがなかなか兵衛は現れない。
「貴様ここにあったのか。」
 後ろから声をかけられる。
「まさかこっちにくるとは思わなかったよ。」
 僕の言葉に兵衛は笑って答えた。
「あんな子供なぞいつでも捕まえることくらいできるわ。それよりわしはおぬしのほうが恐ろしい。おぬしなら流也を倒す方法くらい考えておるのだろ。」
 確かに流也を倒す手段くらいは考えてきたがそれはあくまでも僕一人ではなく綾乃さんか、煉くんの協力の下ならではの話だが。
「ここでおぬしらを殺せばあとは神凪に残るのは全て流也のみで殺せるのじゃ。貴様らも神凪も風牙もわしが滅ぼしてくれるわ。」
 かっかっかっ、と笑いながらこちらを見る。
 遠くではこちらに気づいた煉くんがこちらに寄ってきた。
「康介…さん」
「やぁ煉くん。さっきはすごかったよ。」
 ちょっと照れたような顔をする煉くんだがすぐに不機嫌そうな顔をする。
「あなたにそんなこといわれても嬉しくありません。」
 その言葉にちょっと苦笑すると余計に不機嫌になってしまった。
「貴様ら今生の別れの挨拶は済ませたか。それでは行くぞ。」
 兵衛の放った風をかわす。その瞬間兵衛は体を隠した。それでも明らかに風の精霊が集まったところがばれている。確かに兵衛は強くなったかもしれないがそれが逆に自分の存在をアピールしていることに気づいていないようだ。もっとも実戦経験が浅そうな煉くんは見切れてないようだ。
 しかし遠すぎて僕が攻撃しても風で防がれそうな気がするので攻撃をやめておく。
「煉くん、結界発動させるので援護お願いします。」
 小声で言ってもどうせばれるだろうから大声で叫ぶ。
「させぬぞ。」
 そういって兵衛が姿を現し攻撃を仕掛けてくる。姿を消したままの攻撃では僕にダメージを与えきれないのはわかっているのだろう。僕はそれを防ぎ兵衛に攻撃を仕掛けるが防がれる。僕はこのまま兵衛に逃げられないように攻撃を仕掛け続ける。
 それでも決定打のないまま数秒が過ぎた。正直言うとこのままでは負けはしないだろうが勝ち目がない。すると突然真横にどでかい炎の気配があった。
「喰らえ、兵衛。」
 そこには黄金の炎をまとった煉くんがいた。
 ………………
 …………
 ……
 二人して見事に焼かれた。
 ひどくないかい煉くん、僕ごと焼くなんて。
 炎の加護がある僕はそれなりに髪がこげたのと軽い火傷を負うくらいの軽症だった(それでも火傷なんてはじめての経験だった)。兵衛にいたってはかなりの重症で動くことはできそうになかったが一応命の危険はなさそうだった。
 こっちに近づいてくる煉くん、そして兵衛に止めをさそうとしている。
 僕は急いでそれを止める。
「いやいや、無理に殺さなくても。」
「そうですか、今殺しておいて方がいいような気がしますけど。」
 もしかしてここら辺は和麻の影響でも受けたのだろうか、かなり物騒なことを言っている。
 こういうとき子供は純粋すぎるような気がする。いくら犯罪者のような人間でも人を殺すことを経験するのはよくない。そのことを少しでも考えておいてほしい。確かに僕たちは仕方なく妖魔に憑依された人間を殺すことがある。それでもそのあと僕はものすごい罪悪感に襲われることがある。仕事が終わったあと数日後に突然夢で思い出したりするのだ。いま勢いでこの人間を殺すと彼はきっと後悔することになると思う。そう思い僕は兵衛に止めをさそうとする煉くんを止めた。
 
 遠くでものすごい風と炎の精霊の動きを感じた。
 そちらは和麻と綾乃さんが向かったほうだった。その後まるで今までの精霊の動きがうそだったかのような静寂が訪れた。
 どうやら決着がついたようだ。煉くんがそちらに向かって走り出した。僕は意識のない兵衛を拘束して担いで歩いていく。
 そこには和麻と彼を押し倒している綾乃さん、そしてそれを見て顔を真っ赤にしている煉くんがいた。
 僕は跡形もなくなってしまった流也さんの冥福を祈りながら、彼らのやり取りを生暖かい目で見つめた。
 
こうして今回の事件はあっさり(僕にとっては)解決することになった。
 風牙の人たちは洗脳されていた人はどうやらたいした怪我もないようで大体全治一週間ほどらしい。この人たちは特に処罰もないらしく怪我が治ったあとは復帰することになりそうだ。
 洗脳されていない人たちは風牙を追い出されることになりそうだ。もっとも重悟様が仕事先を斡旋するらしく特に問題ないと思われる。ここら辺は重悟様の甘いところだと思うが、まあ今までの風牙の扱いがなかなか改善することができなかったことに罪悪感があるのだろう。
 今宗主である重悟様は忙しく働いていることだろう。
 
 僕は今病院にいる、さっき和麻が出て行くところだった。厳馬さまのお見舞いに来ていたのだろう。そのようなことを考えながら僕は厳馬さまの病室に入った。
「失礼します。康介です、入ります。」
そこには開いた窓を見つめて困った顔をしている厳馬さまがいた。
「あぁ、康介か。すまないが窓を閉めてくれんか。」
 僕はうなずき窓を閉める。多分和麻のいたずらだろう。
「今回はすまなかったな。」
 厳馬さまのねぎらいの言葉を聞く。
「どうぞ、お見舞いの品です。」
そういって僕は持ってきた今日と土産を置いておく。
その後、病室には特に会話はない。
「厳馬さま。僕旅に出ようと思います。」
 僕のセリフに厳馬さまは「そうか」と短く返す。
「年明けまでには帰ろうと思います。それではいってきます。」
「少し寂しくなるな。」
 その言葉に僕は「息子さんが帰ってきたからにぎやかになると思いますよ」と返しておく。僕は病室のドアを開けて外に出て厳馬さまに頭を下げでた。
 厳馬さまは少し嬉しそうに笑っていた。
 
 翌日僕は空港にいた。
「もう行くのか康介。明日、先日の事件の祝勝会があるのに。」
 この場にはなぜか重悟様とその付き人の周防さんがいた。
「ええ、早めに行かないとまた何か事件がおきそうですから。」
 重悟様は苦笑しながら「それもそうだな」といった。
「これは餞別だ、もっていくといい。」
 そういって周防さんが僕にカードを渡した。
「一千万ほど入っている。貸しだ、早く戻ってきて返すように。」
 重悟様は笑いながらいった。
「それでどこに行くんだ?」
「はい、まずはアメリカに行ってみようと思います。アメリカのマクドナルド家が炎術で有名なんでそこに言ってみようと思います。」
「そうかアメリカか、体に気をつけるのだぞ。」
 そういって彼は僕の背中を思いっきり叩いた。
「はい、それではいってきます。」
 そういって僕は飛行機の搭乗口へといった。更なる力を手に入れるために僕は新たな一歩を踏み出した。
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