ある人曰く、異能者は異能者同士惹かれあうという。
 この話は結構事実で僕もそれなりに事件に巻き込まれたことはある。
 だからってさ、駅を降りたら十数メートルの炎の巨人同士が明らかに最終決戦をしているのはどうかと思う。せめて冒頭から関わらせてほしい。
 
 風の聖痕 炎の記憶  アメリカの炎術師一家編
 
 基本的にアメリカやヨーロッパなどに退魔師や魔術師などが入国するときはその国の著名な(といっても裏の世界でだが)組織に挨拶回りが必要になる。まあそれも大物おかけ意だけの話だが。
 ちなみに神凪の一族は世界一の炎術師の使い手たちの一族といってるからには入国後にそれなりに挨拶回りし目的地のマクドナルド家の地元に行くまでに一週間ほどの時間がかかってしまった。
 そういやこの前言ったアメリカの魔術協会ではみんな敵愾心満点だったな、まあアメリカはシャーマニズム以外新興のものばかりだからいろいろな組織に対してそんな態度ばかりとっているのは実は有名だったりするからそんなにショックじゃなかったけど。
 
 などと現実逃避をしていると二つの炎の巨人は劣勢なほうの自爆により決着がついた。
「かっかっかっ、どうじゃベアトリーチェ。わしの手に入れた新たなる力は、どうじゃわしの花嫁になると誓えば貴様だけは許してやるぞ。」
 声のするほうを見るとそこには醜悪な老人と見目麗しい美少女が対峙していた。
「誰があなたの言うことなど聞くものですか。仮に私が倒されたとしても、きっとキャシー姉さんが私の敵をとってくれます。ロベルト、あなたこそこんな愚かなことをお止めなさい。今ならまだ間に合います。」
「なぜこの私が貴様ら凡人と同じ扱いを受けねばならぬのじゃ。天才のわしの足元に減れふすのが貴様ら凡人どもの義務というものではないか。さあ、これが最後の警告じゃベアトリーチェわしの花嫁になるのじゃ。」
 老人の言葉にベアトリーチェは答えた。
「誰があなたのものになるものですか。そのようなことになるくらいなら自らの命を絶ちます。さあこれが最後の勝負です。きなさいロベルト。」
 そういうと彼女は体に残る炎の精霊を呼び集め、目の前に炎の蜥蜴を作り出した。
 この現象に僕は感心することになる。普通の人間にこれだけの炎の精霊を集めることすら無理なのにそれを動物の形にしたのだ。
「そうか、なんとおろかな女なのじゃ、所詮貴様もマクドナルド家、キャサリンと同じ愚かな女ということか。」
 そういうと老人、ロベルトも自分の周りの炎の精霊、いや男が取り出した宝玉から炎の精霊を呼び出す。それは明らかにその量は彼女の何倍もの精霊が老人の下に集まる。老人が作り出したのはさっきの巨人とは大きさが違うがそれでもさっきの戦いで優勢な戦いを見せたほうの巨人だった。
 二人の作り出した蜥蜴と巨人の戦いは巨人の勝利であっさり終わることになった。
「かっかっかっ。さらばじゃベアトリーチェ。」
 老人の言葉に反応して巨人が少女に止めをさそうとする。
 さすがにここで彼女を見捨てるのは忍びない。
 僕は巨人の攻撃に対して炎を相殺する。
「だ、だれじゃ。」
「もしかして、姉さん!?」
 二人の視線はここで始めて僕のほうを向く。
「あのさぁ、事情はわからないけど人殺しはいかんよ。」
「き、貴様何者じゃなぜわしの邪魔をする。貴様は関係ないはずじゃ。」
 老人はヒステリーを起こしながら叫ぶ。それはまるで僕に話しかけているというより、なんと言うかまるで駄々をこねる子供のようだった。
 少女のほうはぽかんと僕のほうを見ている。
「これは復讐なのじゃ。才能がないといっただけでわしを放り出したマクドナルド家に対してわしは炎術師として復讐をするのじゃ。」
 どこかで聞いたような話のような気がする。
「それはもう60年前のことでしょ。いまさらそんなこといわれても私たちにどうしろって言うのよ。」
 少女の言葉に老人は卑しく笑いながら答えた。
「さっきから言っておるじゃろう。ベアトリーチェ、わしの花嫁になるのなら貴様を生かしておいてやるといっておるのじゃ。」
「私はひいおばあ様じゃないといっているはずよ。」
 いったいこの二人というかこの一族にどんなドラマが会ったんだ。
「そうか、お前のあいつのようにわしを拒絶するのだな。やはりマクドナルド家は滅ぼすしかないのだな。惜しい限りじゃ。」
 そう思うなら復讐?とかするなよ。
「さらばじゃ、ベアトリーチェ。」
「あなた、早く逃げなさい。」
 老人は健全に僕のことを無視して。少女は僕を逃がそうと声をかける。
「無駄じゃ、貴様も見られたからには生かしておくわけにはいかん。」
 そういって老人は炎の巨人に命令を下した。
 そこには攻撃をするために炎をためた巨人がこっちを見ていた。少女はその攻撃に恐怖を覚えたのか目を閉じてしまった。
 そして放たれた炎は……僕たちに当たる前に霧散する。
「な、なんじゃと。ほ、炎が効かぬじゃと……。き、貴様何者じゃ。」
「お姫様(プリンセス)の危機に駆けつけた異国の騎士(ナイト)ってとこかな」
 ………………
 …………
 ……
 すべったか?もしかしてすべったのか。
後ろをちらりと見ると少女は「私の騎士様、騎士様……」とつぶやいている。
「お、おのれ次こそは次こそは貴様を焼き尽くす。わしの炎は……魔術は完璧なはずなんじゃ。これで世界を支配するんじゃ。」
 こんな炎術もどきじゃ無理でしょう。少なくとも僕の上に四人は神凪にいるんだからこの程度の炎術じゃまず世界一から無理だよ。
 それでも彼は炎の巨人で攻めてきた、直接僕を殴りに来る。僕はその巨人の攻撃が僕に当たる前に僕の炎でその巨人を焼いた。
 
 神凪の炎術師が世界で最強の炎術しだといわれているのには理由のひとつに浄化の炎が上げられる。それは穢れを祓う炎、不浄を浄化する炎、そして不自然を自然に戻す炎。魔術はその名のとおり、魔の術なのだ。自然の中に存在するはずのない現象を意思力と過去の英知により無理やり存在させているのだ。しかしそれは不自然な自然現象である神凪の浄化の炎の前ではあっさりと焼き尽くされるしかなのだ。もっともそれでも神凪の炎を知り尽くした魔術師はそれを防ぐすべを編み出せるだろうし、超能力のように人間がもともと持っている力は焼くことが困難だが。
 
 炎の巨人はその魔術構成がぼろぼろに崩れ炎の精霊は窮屈な魔術式から開放された喚起の歌声を歌い舞い上がり散っていった。それは幻想的な光景だった。
 僕の後ろでは老人が泣き崩れていた。その懐から出た宝玉が砕けた。その中には普通では考えられない量の精霊と大きな炎の蜥蜴(サラマンダーと思われる)が飛び上がりひとしきり舞を見せたあと消えていった。
 せっかく格好をつけたのでもう少しお芝居風に彼女に接してみた。
 この幻想的な風景の中僕は少女に手を差し伸べた。
「大丈夫ですか、お姫様。」
 少女は真っ赤になり僕の手を取り入った。
「あ、ありがとうございます。き、騎士様。」
 僕は彼女を立たせて自己紹介をする。
「はじめまして。僕の名前は穂村康介といいます。今回、炎術のことを学びにこの地に来ました。もしよければお名前をお聞かせもらえませんか?」
「わ、私はベアトリーチェ・マクドナルドと申します。ほ、穂村……様」
 少女ベアトリーチェは顔を真っ赤にしもじもじしながら答えた。
「僕のことは康介で結構ですよ。」
「はい! わかりました。康介様」
 結局、様付けですか。でもこんな美少女に様付け悪い気はしない。
「見つけましたわ。あなたが今回の黒幕ですね。このキャサリン・マクドナルドがあなたに天誅を下します。喰らいなさい、これが撲殺くん一号の力です。」
 声がするほうを見るとそこには一人の美女がいた。ベアトリーチェを数年ほど年をとらせてさらにちょっと強気にしたらこんな感じになるだろう女性だった。
 そしてその女性の手にはバットに釘をはやしたような武器を持っていた。
「ね、姉さん。この人はちが……」
「黒幕、覚悟! 」
 僕は多分釘バット(多分これが撲殺くん一号だと思われる)を喰らって意識をとばした。
 
 これが穂村康介とベアトリーチェ・マクドナルドとキャサリン・マクドナルドとの出会いだった。
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