今僕は地下五百メートルのところにいます。

「いやぁ、疲れましたね。大丈夫ですか、康介さん。」

 隣では小学生位の全身タイツをはいた少年がいる。

「ははは、はじめてでこの深さにこれる人間はそういないよ。」

 隣ではなんだか青いたまごに手足と目と口のある謎のコミカルな存在がたくさんいた。

「そうだね、早々いないね。」

「人間って結構大きいんだね。」

「そうだねそうだね。そういえば地上ってどんなとこですか。」

 彼らは地底人と呼ばれている人たちだ。

 しかし彼らはどう見ても実体を持った大地の精霊たちにしか見えない。

 なぜ僕がこんな存在たちに囲まれているかというと、それは三日前にさかのぼる。

 

 

空港はどこでも活気があるというわけではない。それでも世界の中心といっても過言ではないニューヨークにある空港は異常なまでの活気に包まれていた。

「こまったね〜プチ。どうしようか?」

 そこで僕は久しぶりに日本語を聞くことになる。

 懐かしくなり声のしたほうを向くとそこには小学生ほどの少年が壁際で座り込んで目の前の子犬に話しかけていた。

「本当にどうしようかプチ。何か名案は無い?」

 多分迷子になった子供だろうと思い僕は、同じ日本人のよしみとして話しかけようとしたときだった。

「そうだね、ススムくん。どうしようか……」

 少年の目の前の犬がしゃべった?

 いや、きっと少年が腹話術か何かで話しているのだろう。

「どうしたんだい?迷子?」

 僕は少年にやさしく話しかける。

 少年は少し怪訝そうな顔をしたあと、ちらりと犬のほうを見る。

 当然犬は喋らない。さっきのは気のせいだったんだろう。

 大体しゃべる犬なんて…………意外と結構いるな………

 少しの沈黙の後、少年は言った。

「実は親にエジプトに行く途中に置いていかれたんです。」

 

 あのあと、彼のお父さんなる人物から電話をもらった。何でも今から会社の会議があるらしくすぐに迎えに行くことが出来ないらしくとにかくつれてきてほしいといって電話を終えた。無駄にワン、ワンといっていたがそれは彼の癖だろう。けっしてあの時だけいなくなった犬ではないはずだ、そうだと思う、むしろそう思いたい。しゃべる動物とはかなり相性が悪い特に猫。

 そして、ついにやってきましたエジプト。

 暑い、とにかく暑い。けどカラッとしていて日本の暑さとは違う。日本より断然心地いい。それでも暑い。熱さには強いけど神凪の炎術士でも暑いものは暑い。

 空港の外に出てそんなことを考えていると隣の少年と犬がいきなり走り出した。

「康介さんごめんなさい。」

少年が言った。

「ごめんだワン。」

 犬もしゃべった。ああ、しゃべったさ。

 気がついたら二人(一人と一匹?)は人ごみに消えていた。

「ちくしょ〜、だまされた〜。」

 だからしゃべる動物系は嫌いなんだ。

 仕方ないのでエジプト観光をすることにした。

 

 それは観光中のことだった。

 電気屋の隣を通っていると、店のテレビから興味深いニュースが流れてきた。

「本日の早朝からエジプトで始まった謎の岩が出現していたところからさらに興味深い事件がおきました。」

 謎の岩出現事件。それは今世界を騒がせている謎の事件のひとつである。最初は数年前に世界の各地で起こった事件だ。そして今年に入ってインドアメリカで起きた。事件の内容は、ある日突然地面が隆起し始めて大量の岩がそこからあふれ出すのだ。その岩は大変硬くどんな機会も破壊することが出来ずにそのまま放置しておくしかない状況になった。

 しかしある日突然隆起し始めた岩が消え大きな穴になるのだ。その深さは少なくとも三百メートル以上、一説によると二千メートルあるのではないかとも言われている。

 そこでは怪現象も多く確認されオカルトマニアの間では地球外生命体からの侵略や地底人説、古代生物説などいろいろなうわさが起きている。

 どの地術士(そこには世界最高穂の石蕗家も対抗できなかったらしい)でも操作できないその岩が裏の世界でも話題になったが結局誰も解決することが出来ず、どの事件もいつの間にか終わっているという状況だ。

 のちにこのことは裏の世界では禁句となり関与しないことになった。という不思議な事件だ。

 テレビには大きな穴が開いていた。

「こちら現場のナターシャです。こちらが現場の映像になります。」

 そういって映像が切り替わる。そこには大きな穴を開けた地面があった。

「こちら、早朝に突然岩が消え大きな穴が開きました。そのとき子供一人がその穴に落ちてしまったそうです。そのときの映像をご覧ください。」

 そういって映像が切り替わる。

 そこには一人の少年が全身タイツを着て犬と一緒に歩いている風景が映し出されていた。

 一見、昔の宇宙人のような格好だがよく見ると、昨日空港で分かれた少年だった。

「おい、子供がいるぞ。」

「くそ、何でこんなところに。」

「おい、危ないから早くこっちに来るんだ。」

 周りからは制止の声がかけられるが少年はそのまま歩き、ある位置に行くとそのまま手に持っていたおもちゃのようなドリルを地面につきたてた。

「きゃー。」「なんてこった。」「あぁ、神よ。」

 口々に悲鳴が上がる。そしてそのまま子供の姿は地下へと落ちていった。

 僕は呆然とその様子を見ていた。確かに僕はあの時彼(彼ら?)にだまされたが、別に死ねばいいとか思っていたわけではない。

 僕が彼らをエジプトに連れて行かなければこんなことにはならなかっただろうに、そう思ってしまう。

 それならせめてもの供養にと僕は近くの花屋に入り花を買い、僕は大穴絵と向かい歩いていった。

 

 大穴の周りにはたくさんの花束が置いてあった。

 多分さっきの報道を見た人や、現場に居合わせた人々が置いていったのだろう。僕もそこに花束を置く。

 じっと黙祷をささげ、そして穴を見る。

 そこは直径百数メートルあり、深さは少なくともこの時点で百メートルはあるらしい。なぜかそこのほうはあまり見えない。

 僕は方術の基本のひとつで底のほうを『見』た。

 『見』るのは方術や魔術の基本である。視力の増加や霊視の力を上げるために使われる。

 普通の精霊魔術士はまず精霊を『見』てから使役する。神凪は見ずに呼びかけるだけなので『見』る力はあまり活用されない。一流の魔術師などは因果などを『見』ることで一ヶ月前の過去を調べたり、数週間先を見ることも可能らしい。もちろん遠くのことなども『見』るらしいが。

 そこには地の精霊たちがいっぱいいた。それも各自意思があるようで異常なまでの存在感だった。

 ここで僕は少し邪な考えが沸いてきた。

 もしあれだけのレベルの地の精霊と契約できたなら。石蕗ほどではないが強力な大地の精霊使いに慣れるのではないだろうか?

 普通の精霊術とは違い単契約、要するにその精霊だけの契約だ。もちろん二つの精霊にまたがって契約することはあまり好ましくない。しかしそれは人間のさらに言うなら日本の精霊魔術士の話であって、反発する精霊でなければ契約は出来ないことも無い。

 普段炎術を使い。見えないところで地術を利用すればかなりの戦術が広がるのではないだろうか、いや広がる。

 そう思うと、どんどん夢が膨らんでいく。そうせっかくここまで来たんだからいくしかない。

 僕はそう思い大穴の中へと飛び込んでいった。

 まわりで叫び声がたくさんあがるが気にしない。多分明日のニュースに乗るかもしれない。

 そう思うと笑いがこみ上げてきた。

 僕はその地下で思いがけない再開をすることになる。

 

 壁を滑り落ちるように落下していく。速度を落としながら滑り落ちているといっても結構な速度である。

周りは一向に狭くならない。それでも僅かな斜面があるため多少は狭くなっているはずだ。

時間にして数十分そこには異常な光景があった。それは全身網タイツの少年がでかい青い卵に手足と顔のついた謎の生物が話しながら地面を掘っている光景だった。

「あっ、康介さん。」

 それはやはり空港であった少年だった。

「や、やあススムくん。こんなところでなにしてるんだい?」

「なにしてるって、僕はMr.ドリラーなんですから。」

 

 風の聖痕 炎の記憶 「Mr.ドリラー」とエジプトで穴掘り編

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