相手のほうをきちんと見る。
 それは何事においても重要である。
 他人に話すとき。お願いするとき。命令するとき。
 いずれにおいても声だけで命令するのと、きちんと相手を見て命令するとでは相手の反応はおのずと違ってくるものである。
 
 風の聖痕 炎の記憶
 
 本家屋敷から電車で一時間のところにある山の奥で修行がてら自分の力について多少考察してきる。
 この前手に入れた土星輪、これは大地の精霊から貰った宝具である。
 正しくはまだ自意識を持っていない大地の精霊の集合体であると思われる。
 精霊がどのようにして自意識を持つようになるのかは分からない。自意識を持っている精霊はかなり強力で普通の人間には制御することは出来ない。僕たち精霊魔術士はまだ自意識を完全に得る前の精霊たちに命令をすることで魔術を行使している。
 さらに言うなら神凪の精霊魔術は正しく言うなら精霊使役、しかもただ一族の始祖が契約した精霊王の威光を借りただけのものである。神凪の炎術は重悟様と厳馬様以外の人間は精霊魔術と呼ぶにはまだまだ甘いとしかいえない。
 精霊魔術においてもっとも大切なのはきちんと精霊たちのことを見ることである。
 干渉する精霊をきちんと把握してなにをさせたいかをきちんと命令する。それが大事である。綾乃さんが人間に火傷を負わせることなく浄化の炎で浄化することが出来ないのは、綾乃さんが完全に精霊を見つめて使役することが出来ていないからである。
 話を土星輪に戻す。この土星輪は自意識を持つに至っていない大地の精霊である。この指輪をつけることにより、大地の精霊にお願いすることが出来るようになる。
 これは土星輪をつけることにより、大地の精霊の仲間であると認識させているのだと思う。
 要するにこの指輪をつけていると大地の精霊に擬似的になっているということである。多分数百年たつとひとつの精霊として活動を始めることが可能になるだろう。
 
 その少年を見つけたのは年が明け、地術の修行するために人里はなれた山から帰ってきた今年最初の満月の前日の晩のことである。(ちなみに高校のほうは武者修行のときに休学届けを出し忘れたために完全に留年してしまったため今ではほとんど行っていなかったりする)
 その少年の名前は芹沢達也。煉くんの友達である。といっても僕自身は彼ら(そのときは芹沢くんと鈴原花音ちゃん)とあったのは正月のときに煉くんと一緒に初詣に行こうと神凪の屋敷のときに訪ねたときに僕が対応したのだ。どうやら二人は神凪の屋敷で鉢合わせしたらしく、芹沢くんは鈴原さんにぼこぼこにされた。それでもすぐに回復してさっさと出て行った二人を(正しくは鈴原さんに連れて行かれた煉くん)追いかけていった。
 その芹沢くんがおなかを抑えながら足を引きずるように歩いていた。
「こんばんは、芹沢くん。体の調子でも悪いの?」
 180センチ弱の彼を見上げながら(ちなみに僕は170センチ前後だったりする)僕は話しかける。
 しかし彼は不審そうに僕を見下ろしている。
「あんた、誰だよ?」
 その言葉に一瞬僕はきょとんとしてしまう。
「ほらお正月のときに会ったでしょ。神凪のお屋敷で、煉くんを連れてきてあげたじゃないか。」
 僕の話を聞いてやっと思い出したのか、彼は小さく「あぁ」と納得行ったような顔をした。
「ところで体大丈夫かい?まったくどうしてこんなことになったんだい。」
 彼は少し考え込んだ後事の次第を説明し始めた。
 
「ようするに、煉くんと一緒に遊ぶ権利を得るために女の子と喧嘩して完膚なきまでにやられたのか。」
 彼は恥ずかしそうにうなずいた後立ち上がった。
「それじゃあ僕は煉を探しますんで。」
 そういって芹沢少年は去っていった。
 なんでも彼と少女の愛しの君、神凪煉くんを得るために日夜戦い続けているらしい。
 
 珍しく僕の携帯が成ったのはその日の夕食は神凪の食事の時間が終わっているために吉○家で豚丼を食べているときのことだった。
「はい、もしもし」
「康介か?私だ」
携帯にかけてきたのは重悟様だった。
「どうしたんですか重悟様?今日は仕事は入ってなかったはずですけど。」
「あぁ、じつはお前に頼みたいことが出来た。」
 重悟様の話を要約すると煉くんが石蕗の宝を強奪して逃げているらしい。
「それって無理がないですか、だって煉くんは今日きちんと学校に行っていたみたいだからそのあとに石蕗の屋敷までいって宝を強奪するなんて炎術士では無理ですよ。」
「うむ、それなのだが。実は今年は大祭みたいだ。」
 山祈大祭。石蕗の一族が約三十年に一回行っている儀式である。なんでも術者が必ず死ぬといわれるほどの強力な封印術を用いて富士山に潜む魔獣を封印するというものである。
「え〜っと。要するに誘拐ですか?」
「康介は話が早くて助かる。その可能性がもっとも高い。お主には早めに煉を見つけ出してほしい。石蕗の人間に殺されることはないと思うが早めに見つけてほしい。」
「わかりました。あと祭主はどうしますか?」
 数秒の沈黙、重悟様は一瞬何かを考えたようだがただ一言「康介の判断に任せる」といった後電話を切った。
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