薄暗い裏路地で黒い影を追いかける。
 それは犬のような格好をした生き物だったがよく見るとそれは足が7本あった。
「穂村さん、予定地まで約三十秒です」
 風牙の木霊で連絡が入る。こういうとき手放しで会話できる風牙の術は便利でいい。
 犬の格好をした悪霊が広場に飛び出した。
「悪霊よ、燃え尽きなさい」
 飛び出した瞬間『黄金』の炎が魔犬を焼き尽くした。
 
 風の聖痕 炎の記憶
 
「ご苦労様です、操さん」
 広場には僕と大神操さん、そして風牙の現当主、風巻弥生がいる。
「ごくろーさん」
「ご苦労様です、康介様、弥生様」
 本来なら僕は京休みだったのだが、なぜか和麻がいないため僕と弥生さんが急遽操さんと仕事をすることになった。
 何でも操さんがパートナーのときと綾乃さんがパートナーのときでは約十倍の安さで仕事をしてくれるらしい。ちなみに帰ってきた直後に綾乃さんにこのことで三時間も愚痴られた。
 大神操。まさに大和撫子というにふさわしい女性だった。何故過去形でいうのかというと、彼女の左の頬には鋭い何かで斬られた痕がある。何でも僕が旅に出て数日後に事件が起きて顔に傷を負ったらしい。その事件のときに妖魔に体をのっとられ無理やりその才能を引き出されたらしい。それが原因で『黄金』の炎を使えるようになったらしい。
 風巻弥生。旧姓西村弥生、現風牙の当主。彼女の母親が兵衛の娘、流也の妹に当たる。風牙の当主になるに当たって苗字を風巻にした。兵衛の反乱事件のときに真っ先に洗脳されてしまったらしい。その後洗脳が解除されたあと異常なまでに力が上がっていたらしい。
ちなみに彼女は美人だ。
 ………妖魔に憑依されようかな……
 もっとも誰も僕のこと助けずに抹殺しそうなのでやめておく。
「はぁ、本来ならこのあと和麻様とデートのはずなのに、ほんと和麻様はどこにいたのでしょう」
「だねー、ボクなんか昨日五時間も待ってたのに結局来なかったんだよ」
 今の会話でわかると思うが、二人ともなぜか和麻にベタぼれだったりする。いや、別にうらやましいとかじゃないから、僕にはベティがいるから別にいいやい。
 ちなみに風牙では和麻と弥生さんとの交際はかなり認められているらしい、というより本当は風牙の当主として迎えたかったらしいが断られたためせめて次の当主に和麻の子供を添えたいらしい。
 逆に操さんと和麻の交際は神凪では宗主以外すべて反対を示している。(厳馬さまはコメントを控えている)煉くんはどうやら和麻と綾乃さんがくっついてほしいらしい。綾乃さんは和麻のことを変態とか鬼畜とか外道と五時間以上愚痴を聞かされた。特に操さんの親衛隊(非公認)たちは和麻との実力差に涙ながらにあきらめるしかなかった。(ちなみに非公認神凪美少女コンテストでは一位操さんで、僅差で綾乃さんが二位だったりする)
「こうなったら三人で飲みにいこう」
「そうですね、弥生様。私もそのように提案しようと思っていたところです」
 二人とも二股かけられているのにまったく気にしてないようだ。
 というよりまだ全然昼間だし、さらに言うなら僕の参加は強制ですか?
 僕が文句を言おうと思ったとき、マナーモードにしていた携帯が震えだした。僕は二人に断り携帯に出た。
「はい、もしもし」
「私だ」
「『私だ』じゃ判りませんよ重悟様」
 ちなみに携帯のディスプレーに宗主と書いてある。
「実は大変な事件が起きた」
 もう事件は結構です。
「はぁ、いったいなにが今度は起きたんですか?」
 重悟様は深刻そうなため息をついた。
「それが綾乃と煉が行方不明なのだ」
 何となくこのあとの展開がわかってきた。
「でも煉くんは無気力に縁側で座り込んでいましたよね。もしかして石蕗に向かった、とかではないですよね」
「実はその可能性が最も高い、そこで康介には綾乃たちを連れ戻してほしい」
「……本気でいってますか?僕の実力では彼ら二人を止めることなんてほぼ不可能ですよ」
 僕の言葉に重悟様は鼻で笑ったあと「お前ならできる」といった。
「本当は厳馬に行って貰うのが最もいいのだが奴はまだ怪我が完治してないから動くことができん。二人を止められる可能性があるのは実際のところお前だけしかいないのだ、いってくれるな」
「僕しかいないんですか?」
「神凪でもっとも小細工と話術のうまいのはオマエだからな」
 それ褒めていません。
「そろそろ周防がそこに来るはずだ、周防から移動手段を貰ってくれ」
 その言葉に後ろを振り向くとそこにはいつの間にかバイクに乗った(しかもかなりの大型車)周防さんがいた。
「穂村様これが移動手段になります」
「後は頼んだぞ康介」
 そういって重悟様は電話を切った。
 周防さんはバイクを渡していつの間にか消えた。
 っていうか大型バイクの免許なんて持ってないよ、原チャリしか乗ったこと無いぞ。
「康介様、ではまたの機会に飲みましょう」
「穂村くん、がんばってね。あ、次の飲み会は穂村くんのおごりね」
 僕は未成年です。
 仕方なし僕はバイクに乗り込み石蕗の屋敷に向かうことになった。
 できれば何も事件がおきませんように。
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