新月の深夜。
 その日は風も無く、雲の無く、月明かりすらない。
 僕は自分の炎を燈しながら自分の手の中にある土星輪を見つめた。
 これから僕は神をも恐れぬ行為をすることになる。
 
 周りには知り合いの地術士から貰った完全に聖別された土。
 そして古今東西人間の復活に必要そうなものと、僕なりの考えで集められた材料。
 大地には既に結界が書いてある。
 それには呪文の何も必要ない、必要なのは強い意志ただそれだけだ。
 僕は土星輪を決壊の中心地においた。
 亜由美ちゃんの魂はすべてこのなかに封じてあると思う。
 思う、と述べたのは実際にこのなかに彼女の魂が入っているかどうか知るすべを僕が持っていないだけだ。
 もともと亜由美ちゃんの核は風の妖精の卵だった。しかし亜由美ちゃんの元となった人間は大地の精霊の契約者の子孫でとても風の精霊と相性が悪くそれが彼女の命を縮める要因の一つになった。
 そしてもう一つの彼女の寿命を縮める要因となったのは無理な成長にある。
 それならその要因を取り去った状態の体を作ればいいのである。
 もっとも普通そんなことしても人は生き返らないし魂が無い肉体を作ってもただの肉ができるだけだ。
 しかしそこに魂があれば、さらに生命と成長を司る大地の精霊使いであれば不可能ではないのではないだろうか?
 超一流の地術士の生命力は主要器官さえ残っていれば生き残ることができるものも居る。
 なぜ彼らはそのような状態で復活できるのか?
 それは意志の強さ、ひいては魂の強さではないかと思われる。
 精霊魔術を行使するにあたって必要な強靭な意思力を持ってすれば魂レベルからの復活も理論上は可能だ。
 といっても普通は肉体が無ければ人は生きていけないし、魂が肉体を離れると簡単にその魂は汚染され、悪霊や不浄なる者に取り込まれてしまう。
 しかしここにあるものは土星輪、悪霊などからの侵食にも絶えれるし、魂さえはいれば十分に魔術を行使することができるはずだ。
 普通の人間には魂とか、精霊魔術とか理解できないものに頼ることはできない。
 しかしそれが一流精霊術師それも地術士だったならば可能ではないだろうか?
 もちろん外部からのサポートはする。
 必要なものもそろえたあとは僕が彼女に呼びかけ自らの肉体を蘇生することを成功させることができれば彼女は生き返ることができる……はず。
 完全に聖別された大地を炎で焼き尽くす。これには炎に含まれる破壊と再生の属性の再生の願いを込めて。
 その後いくつもの魔術的儀式を神話的逸話を盛り込んだ怪しげな儀式を一人で着々と進める。
 これがかなりのご都合主義的なものだとは自分でも理解している、それに僕はたぶん死んだら地獄行きだろう。あって一ヶ月ほどしかない少女のためにこのようなことをしているのだから。
 それでも彼女には生きてほしいし、煉くんにもあまり悲しい思いはさせたくない。
 
 数時間に及ぶ儀式、気がつけば僅かに日が昇り始めていた。
 そして最後にもっとも忘れてはいけないものそれは人としての部分を取り入れ体を再生させる。
 真由美の髪を一房得ることができた、あと今回の儀式で一番大事だと思うものを取り出すことにする。
 正直、ここまでする必要があるのか?と思うがちょっと自分のなかで人間を黄泉帰らせることができるかどうかという好奇心もある。
 僕は儀式の最後の段階に入る。それは男の肋骨。
 僕は気を体に行き渡らせ少しでも痛覚を緩和し一気に僕の肋骨を一本引き抜いた。
 聖書で神様は男の肋骨から女を創ったという。それなら男の肋骨で女を生き返らせることも不可能ではないと思う……普通は不可能だけど。
 あとはそれを儀式の中心に置き、時間が経つのを待った。
 僕は応急処置を追えると痛みで意識を失った。
 
「起きて、ねぇ起きてよ」
 目を覚ますとそこには一人の少女、いや幼女が居た。
「だれ?」
 その言葉に少女はがっくりと肩を落とす。
「亜由美よ、まさか本当に生き返れるなんて思って居なかった」
「それはオレも同じだよ」
「じゃあ、早速煉に会いに行って来る」
 そういって亜由美ちゃんが結界を出ようとすると、結界から体を出した部分が土くれに返ってしまう。
「まだ、安定してないみたいだね。煉くんに会うのはもう少し先のことになりそうだね」
 その後少女は約一週間ほど野ざらしのまま生活することになる。
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